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Author:メシダ・イワン
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2008/12/03 09:01|

干し柿 

柿の実を目にすると思い出す、夫婦の物語がある。

登場人物は、友人宅隣のおじいちゃんとおばあちゃん。




数年前、子供のころ以来十数年ぶりに再会した際、おばあちゃんは相変わらず元気で明るかった。

「元気そうでよかった」と私が言うと、
「これでも、去年おじいちゃんが亡くなってしばらくは、毎日泣いて暮らしていたんだよ」と、
おばあちゃんはおじいちゃんの思い出を話し始めた。


おじいちゃんは、とにかく働き者だった。

田んぼや畑、庭の手入れなどの外の仕事はほとんど一人でこなし、おばあちゃんに手伝わせることがなかった。
また几帳面な性格で、日記は五十年間休まず続け、納屋の中はいつもきちんと整頓していた。

そんなおじいちゃんが、ある時体調を崩した。

検査の結果、喉頭癌だということがわかった。

田舎ではいい治療ができないからと、東京の専門医がいる病院を探し、入院した。
おばあちゃんは、必死になって付きっ切りの看病をした。

手術が成功し家に帰って来ると、季節は秋だった。

庭の木には渋柿がたくさんなっていた。
おじいちゃんはさっそく仕事をした。
木になっていたありったけの渋柿を取り、皮を剥き、軒に吊るした。

この地方特産の干し柿にしたのだ。



そして冬が来たとき、おじいちゃんは静かに息を引き取った。



おばあちゃんは悲しくて寂しくて、おじいちゃんのお墓にも聞こえるくらいの大声で、毎晩泣いた。


そんなある日、おじいちゃんの残した日記を読んでみた。
おじいちゃんの歴史だ。
畑に何を蒔いた、どこに行った、だれが来た、など事細かに書いてあった。

最後の方まで読み進め、闘病生活を綴った箇所を目にした時、おばあちゃんは驚いた。

そこには「妻に感謝する」と書かれていたのだ。
それも、何度も何度も。
おじいちゃんは昔気質だったので、言葉には一度も出さなかった。
でも、毎日おばあちゃんに感謝していたのだった。

おばあちゃんは、泣いた。
おじいちゃんの気持ちがうれしくて、大泣きした。


春になったころ、おばあちゃんは変わった。

今まで一度も使ったことのなかった電動草刈機を持ち、男顔負けで土手の草刈に精を出した。
畑仕事もした。
日焼けなんてしたこともなかったのに、初めて顔が真っ黒になった。
近所の人達に「おじいちゃんが亡くなってから元気になった」と、からかわれたほどだった。


「おじいちゃんはね、干し柿を残していってくれたんだよ。農協に出したら、たいしたお金になったの」

あの干し柿は、おじいちゃんからおばあちゃんへの最後のプレゼントだったのだろう。


柿の実を見ると思い出す夫婦の物語。
言葉に出さなくても、伝わる思いがあることを教えてくれた、おじいちゃん、おばあちゃんのこと。

そして、私は心で祈る。

おばあちゃん、いつまでも元気でいてね、と。



***

昨年書いたエッセイを載せてみました。
このおばあちゃんは、今も健在です。
この文章を贈ったら、泣いて喜んでくれました。





2007/11/02 11:37|自己紹介TB:0CM:0

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